「地域名+商品(サービス)名」=地域団体商標か?(弁理士・弁護士 加藤光宏)

「地域名+商品(サービス)名」=地域団体商標か?(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 7月 06日

地域団体商標という制度がある。いわゆる地域ブランドを守るための制度で、「地域名+商品(サービス)名」に商標登録を認めるという制度だ。
平成25年9月末時点で、551件の登録があるとのことだ。
愛知県では、「蒲郡みかん」「有松鳴海絞」などが登録されているし、東海地方で見ると、「静岡茶」「熱海温泉」「飛騨牛」「関の刃物」「松阪牛」「伊勢うどん」などが登録されている。
その一方で、喜多方ラーメンのように登録できなかったなどという例もあり(参考記事)、「地域名+商品(サービス)名」であれば、何でも地域団体商標として登録を受けられるという訳ではない。
地域団体商標として登録を受けるためには、
(要件1)組合などの団体が使う商標であること(一企業だけが使うものはダメ!)
(要件2)商品や主要原料の産地、提供地など商品(サービス)が地域と密接に関連していること
(要件3)上記の団体などが使用してある程度周知になっていること
(要件4)普通名称になってはいないこと
という条件を満たす必要がある。
有名な商標などでは、既に組合や団体以外の者も使用しているため、要件1を満たさなくなってしまうようだ(先の喜多方ラーメンは、このパターン)。特許庁による分析でも、地域団体商標が拒絶される事例の70%が、この要件を満たさないことによるものとされている。

さて、出願にあたって、気になるのが要件2だ。
地域と商品等との密接な関連というのは、いくつか例を見ればわかると思う。
例えば、
「和歌山ラーメン」は、「和歌山県産のスープ付き中華そばのめん」を指定商品として登録されている。
「姫路おでん」は、「姫路市におけるおでんの提供」を指定役務(サービス)としている。
「伊勢うどん」という商標は、「三重県産のうどんのめん」が指定商品だ。
個人的には、「伊勢うどん」というのは、あの太い麺と、濃いタレに特徴があり、それが伊勢地方発祥というだけであって、うどんの麺が三重県産かどうかということに は、あまり関係ないと思うのだが、地域団体商標の登録を受けるためには、指定商品を「三重県産」と限定する必要がある。仮に、この組合が、三重県外に、大きな うどん工場を作って、伊勢地方はもちろん、県外にも伊勢うどんを提供するようになったら、指定商品である「三重県産」の麺に対して商標を使用していないことになってしまうのではないだろうか。特許庁の審査基準を見ると、地域との関連については、「●●地方に由来した製法の××」という指定も認められているようだが、こうした指定も、「製法が異なったら?」という疑問はぬぐえない。
また、「姫路おでん」のように「姫路市におけるおでんの提供」という指定の場合、姫路市以外に全国ブランド化を図ることは困難なのではなかろうか?

地域団体商標が地域ブランドを保護するための制度であることを考えれば、地域との密接な関連を要求するのは当然のことである。しかし、逆に、地域名を入れた商標だからといって、必ずしも「産地」「提供の場所」「製法」などの意味で、地域と密接な関連があるとは限らない(名前をつけるときに、安易に地域名や自分の名字などを入れるのは、ありがちなことだろう。)。また、地域ブランドを、将来、どのように活用していくのかも考慮しなくてはならない。
本当に地域団体商標として登録する他ないのか?また、地域団体商標として出願する場合に、安易に「●●産の」等で指定をしてよいものか?
よく検討した方がよいかも知れない。


やるなぁ、USJ(弁理士・弁護士 加藤 光宏)

  • 2014年 6月 26日

大阪府のキャラクター「モッピー」が改名するそうだ。すでにユー・エス・ジェイ(USJ)が商標登録しているとのこと(関連記事)。

ちなみに、USJが登録しているのは、MOPPY/モッピー(商標登録5440951)である。この記事を見るまで、全く知らなかったのだが、USJが、エルモのお友達としてPRしているキャラクターの名前だ(USJのHPはこちら)。

大阪府のモッピーは、平成9年に実施したなみはや国体のマスコット。USJのMOPPYは、平成23年2月22日に出願されているから、大阪府がなみはや国体の頃に、さっさと商標登録出願を済ませておけば、今回のような問題にはならなかったはず。大阪府にとっては、登録せずに放置しているとこういう困った事態が起きるという、いい教訓になったことだろう。

さて、USJのMOPPYのホームページを見て、「やるなぁ!」と感心したので、少し触れておきたい。
(ここから先のことは、USJの関係者に取材した訳ではないので、私の推測が含まれること、ご了承いただきたい。)

USJのテーマパーク内は、各種キャラクターの塊で、それぞれ米国のユニバーサルグループはじめ各企業からライセンスを受けてビジネスを行っている。つまり、USJ自体、キャラクターについてのライセンス契約の塊でなりたっているテーマパークだ。
ライセンス契約の内容は、単にキャラクターを使用したアトラクションについてだけではなく、当然にキャラクターグッズも対象となっている。新しいキャラク ターグッズを製造・販売しようとすれば、当然、ライセンサーに企画説明をし、その了承を得て、ライセンス料を支払った上でないと製造・販売できない。
USJには、「すぱいだぁ麺」というカップ麺がある。「麺」は明らかに日本語だから、「すぱいだぁ麺」はUSJが独自に考え出した、関西らしいキャラク ターグッズだと思うのだが、この商標登録(商標登録5181407)がおもしろいことになっている。出願の時は、USJの名前で出願され、USJを権利者 として登録されているのだが、登録後半年ほどして、マーベル・キャラクターズ・インコーポレーテッド(スパイダーマンのライセンサーと思われる)に移転さ れているのだ。このことから、USJが独自に考えたグッズの「名称」についてまで、ライセンサーに権利譲渡することが契約内容になっているのだろうと伺わ れる。

キャラクターグッズの売り上げ、そして、そのために支払われるライセンス料は膨大な金額になるので、USJとしては、できるだけオ リジナルのキャラクターグッズで勝負したいはずだ。しかし、既存のキャラクターをもとにした「独自商品」では、結局、ライセンサーにすべて権利を持って行 かれてしまう。一方、既存のキャラクターと無関係に独自のキャラクターを起用しても、売れるとは限らない。
そこで、MOPPYという独自のキャラクターを、エルモのお友達という設定にすることで、その人気にあやかって売りだそうという戦略をとったのだろう。
こういう方法は、東京ディズニーランドのダッフィーなどでもとられているから、特に新しい手法という訳ではない。ただ、いつまでもライセンスという路線だ けに甘んじるのではなく、独自キャラクターを売り出す戦略にも取り組みつつあるところに、「やるなぁ!ユー・エス・ジェイ」と感じた次第である。(だから といって、私には、MOPPYは買えませんけどね。)


タイ・インドネシアにおける権利行使(6)(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 5月 19日

資料はこちら

【民事訴訟or刑事訴訟?~STARBUCKS事件】
 ちょうど、本件の調査研究を行っているときに、タイで商標権の侵害事件が発生した。STARBUCKSの商標権侵害事件である。参考になると思われるので、その内容を紹介する。
 バンコクでコーヒー屋台を営んでいる者が、STARBUNGという名称とSTARBUCKSと一見、紛らわしい商標を用いていた(どのような商標かは、セミナー資料をご覧ください)。
 これに対し、STARBUCKSは、民事的な解決を試みるべく、2012年10月以降、数回にわたってSTARBUNG側に警告書を送付した。ところが、STARBUNGは、警告書を無視して、商標を使い続けるだけでなく、STARBUCKSに対して、商標の仕様を中止する代わりの補償金として約900万円を要求してくる始末であった。STARBUCKSは、裁判所での調停を申し立てたが、STRABUNGが拒否したため、調停は不成立となった。
 それでも、STARBUCKSは民事的な解決を試み、裁判所からSTARBUNGに対して、STARBUNGの名称およびロゴの使用の差止命令が出されたが、STARBUNGは、それすらも無視して商標を使用し続けていた。
 結局、STARBUCKSは、2013年10月に刑事事件の申し入れも行った。正確に、どのような手続きを行ったのかは不明であるが、この申し入れ後の手続きの進行とタイの弁護士のコメントによれば、STARBUCKSは、検察官を加えず、単独で裁判所に起訴したようである。STARBUNG側は、当初、裁判所からの出頭命令を無視していたようだが、さすがに刑事事件ともなると、無視し続けることもできず、STARBUNG側が商標をBUNG STARに変更することで和解が成立した。余談ではあるが、STARBUNGは、この事件を契機に、バンコクで有名になり、商売繁盛しているとのことである。
 この事件でSTARBUCKSは、当初、民事的な解決を試みたが、解決に至らなかったため、刑事的な措置に移行した。この事件は、あくまでも一つの事例に過ぎず、必ずしも民事的措置から開始して刑事的措置に移行すればよいというものでもないし、解決には刑事手続が必要という訳でもない。この事案を参考にしながら、解決策は、その事案ごとに検討する必要があろう。
 なお、この事件について、タイでは、STARBUCKSのような大企業が、現地のコーヒー屋台を相手に権利行使したことに対して批判的な意見もあったようである。タイでの権利行使には、こうしたリスクも考慮に入れる必要があると思われる。

【税関における水際措置】
 税関での水際措置について、法律上は知的財産権の侵害全てに対して適用できることになっている。しかし、実運用に欠かせない通則が用意されているのは、商標と著作権に対してのみである。従って、実務上、商標権、著作権侵害の場合でないと、水際措置をとることはできない。
【インドネシアにおける権利行使】
 インドネシアについては、なかなか詳細な情報が得られていない。例えば、知的財産権侵害に対して、刑事訴訟と民事訴訟のいずれがとられているかという点についても、客観的な統計データが得られない。水際措置については、法律上は差止めが可能な規定となっているものの、実運用をするために必要となる規則や通達が整備されていないとのことである。著作権や商標権を対象とする規則については、2012年7月30日に発効したものの、まだほとんど運用には至っていないとの情報もある。
 このようにインドネシアについては、制度は整っているとしても、その運用に非常に問題があるようなので、侵害への対処は、現地の代理人に相談すること抜きに進めることはできないと思われる。
 インドネシアの事件を担当している弁護士から聞いた情報によれば、インドネシアでは、刑事手続をとるために、警察に告訴をする場合に、非公式な費用を請求されることがあるので注意する必要があるとのことである。例えば、警察からOperation Feeなど、いかにも公式な手数料かのような名目で費用を請求されるが、実体は、領収書も発行されない非公式なものであることがあるとのことだ。企業としては、こうした非公式な手数料を支払わないよう、注意する必要があろう。

(完)


タイ・インドネシアにおける権利行使(5)(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 5月 13日

資料はこちら

【民事訴訟or刑事訴訟?(1)】
 今回の調査研究の中心的なテーマは、タイで権利行使を考えるときに民事訴訟、刑事訴訟のうち、どちらをどのように活用するのがよいか?という点であった。
 タイでは刑事訴訟を第一に考えるべきと書かれている文献も多数ある。確かに、統計上もタイでは刑事訴訟が中心となっているが、これは、タイのDIP(知的財産権局)が刑事手続を推奨したことが一因であるとの情報もある。
 また、民事訴訟は刑事訴訟よりもコストが高く、期間もかかるとの見解もある。しかし、これも事案によりけりである。民事訴訟では、翻訳料が費用の少なからぬ部分を占めるが、CIPITCでは、訴訟の書類や証拠等を英文で提出できる特則の適用があるため、これを活用することにより、翻訳料、ひいては訴訟の費用を低減できる可能性がある。また、刑事訴訟は早いという点についても、事案によっては、検察官が証拠を精査するのに時間を要し、捜査が終了してから起訴まで1年以上を要することもあるようだ。このように考えると、費用や所要期間に基づいて単純に民事訴訟か刑事訴訟かを判断することはできないように思われる。
【民事訴訟or刑事訴訟?(2)】
 これは、今回の調査研究に基づく一つの提案であるが、やはりタイでは刑事訴訟を優先するのが良いと考える。タイでは、共同原告という形で権利者が刑事訴訟に関与することができ、また刑事訴訟での経済的補償も認められているからである。刑事訴訟を優先することで、これらの特徴を活かした対処を行うことができると考えるのである。
 まず、権利者は、刑事告訴し、共同原告として検察とともに刑事訴訟を提起する。そして、この刑事訴訟内で、侵害によって受けた被害の回復も請求するのである。これが認められれば、民事訴訟で損害賠償請求を行ったのと同じ効果が得られる。しかも、警察・検察官と協力して進めるから、捜査を通じて、侵害や損害の立証に必要な証拠を収集することもできる。
 ただし、刑事訴訟のみでは十分でない場合もある。刑事訴訟で請求した被害額のうち、一部が認められないこともあるからである。また、刑事訴訟において有罪判決が下されるためには、侵害者が侵害行為を故意に行っている必要があるが、事案によっては、故意とは認められないこともあるからである。
 このような場合には、その後、民事訴訟を提起すればよい。刑事訴訟で認められなかった不足分の損害賠償の支払いをもう一度求めるチャンスが得られることになるし、故意で無罪と判断された場合でも、「過失」ありと認められ、損害賠償請求は認められる可能性もある。しかも、刑事訴訟で警察・検察によって収集された証拠は、民事訴訟でも活用できるのである。
 このように、タイでは刑事訴訟を優先的に進めながら、民事訴訟を補足的に活用するという方法がよさそうに思われる。なお、同じ侵害事案に対して、刑事訴訟と民事訴訟の双方が提起された場合、裁判所は一方の判決が出るまで他方の審理を停止しておくとのことである。民事訴訟、刑事訴訟のいずれを先に進めるのかという点については、確認できなかった。

(続く)


タイ・インドネシアにおける権利行使(4)(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 5月 10日

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【抗がん剤製法特許侵害事件(3)~権利範囲の解釈】
 抗がん剤製法特許侵害事件でCIPITCと議論をした点がもう一つある。特許権の権利範囲の解釈についてである。
 タイの特許法は、日本と異なり、均等論の適用を明文で規定している。つまり、タイ特許法36条の2では、「特許発明の保護範囲は、クレーム中に特に記載がなくとも、…クレームに述べられているのと実質的に同じ特性、機能及び効果を有する発明の特徴まで拡大される」と規定されているのである。
 この規定は、均等論の適用について明文化したとも読めるが、同時に、クレームの解釈方法について規定しているとも読める。後者の解釈に立てば、クレームの文言を厳格に解釈する必要はなくなり、均等の範囲を含めた幅を持った解釈が許されることになる。
 ディスカッションにおいて、CIPITCからは、「クレーム解釈について確立された判断手法がある訳ではない」との回答を得ており、上述の疑問点については明らかにはならなかった。しかし、CIPITCは、「均等論については権利者がそれを主張したときに考慮する」とも述べていた。このことから考えると、クレームについて日本と同様の文言解釈を行った上で、権利者が主張すれば均等論についても考慮するという2段階の権利解釈となるのであろうか。この場合、法律において均等論が名文で規定されているのに、権利者が主張しないときには、それを考慮しないという解釈が許されるのであろうか。
 このように、クレームの権利範囲の解釈方法についても、まだまだ問題点が存在するように思われ、今後、種々の事案が表れるごとに大きく変遷していく可能性もあると思われる。
 抗がん剤製法事件では、CIPITCと最高裁で判断が異なった。被告の製法では「アセトン」を使用しており、原告の「アルコールを使用する」というクレームの均等範囲に属するか否かの判断が、両裁判所で異なったためである。しかし、残念ながら、調査した範囲では、判断が異なることとなった理由の詳細は、わからなかった。
【権利無効の抗弁?】
 日本における特許権の侵害事件では、対象となっている製品等が特許権の権利範囲に含まれるかという属否論と、特許が無効であるとの抗弁とが主張される。タイにおいても、無効の抗弁が主張されるのであろうか?これがCIPITCでの3つめのディスカッションのテーマであった。
 結論として、タイでは、訴訟において、「特許無効の抗弁」を主張することはできないとのことである。タイでは、特許の有効性については、権利取消訴訟で争う必要があるのだ。従って、訴訟において特許の有効性を争いたい場合には、権利取消訴訟という別訴を提起する必要がある。そして、権利取消訴訟を提起すれば、裁判所は、侵害訴訟と権利取消訴訟とを併合して審理するようである。仮に権利取消が認められると、それはその訴訟限りの効果ではなく、対世効を有することになる。
 もし、被告が、権利取消訴訟を提起せずに、侵害訴訟の中で特許の無効を主張したとしても、裁判所は、あくまでも権利は有効に成立しているとの前提で判決をする他ないとのことである。タイにおいて特許の有効性を争う場合には、注意を要する点である。

(続く)


タイ・インドネシアにおける権利行使(3)(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 5月 05日

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【抗がん剤製法特許侵害事件(1)~事案の概要】
 ここで判例を一つ紹介する。CIPITCとのディスカッションの題材とした判例である。
 余談になるが、タイでは、判例の検討を行うことは容易ではない。タイの弁護士に聞いたところによると、判例にアクセスすること自体が非常に難しいとのことである。一応、最高裁などの判例は、タイ語で公開されることとなっているのであるが、どのような判例が公開されているのか、調査に資する情報が得られるのは、公開よりも相当遅れた時期であり、最新の判例を勉強するということが非常に困難だと嘆いていた。
 ここで紹介する事例(2009年10月29日の最高裁判決)は、調査に協力していただいたタイの法律事務所が扱った事件であるため、比較的詳細な部分も把握できているからである。
 原告のアベンティス・ファルマS.A.社は、タイにおいて抗がん剤の製造方法に関する特許権を有しており、抗がん剤TAXOTEREを製造販売していた。被告のバイオサイエンス社は、DAXOTELと呼ばれる抗がん剤をインドで製造し、タイに輸出していた。タイ特許法では、製造方法の特許権は、日本と同様、その方法で製造した製品に及ぶ(タイ特許法36条)。従って、争点は、被告がインドで行っている製造方法が、タイでの特許権の技術的範囲(均等範囲を含む)に当たるか?という点である。
 CIPITCは、被告の方法は、均等範囲に含まれ原告の特許権を侵害すると判断した。最高裁は、この判決を覆し、均等の範囲には含まれず、特許権侵害に当たらないと判断した。
【抗がん剤製法特許侵害事件(2)~製造方法の推定】
 被告が製造販売するDAXOTELの製造方法について、タイ特許法には製造方法の推定規定がある(タイ特許法77条)。同規定は、適用要件として「被告の製品が特許された製法で製造された原告の製品と同一または類似のとき」というものがある。平たく言えば、被告製品と原告の特許製品とを比較し、同一または類似ならば、製造方法も同一であると推定するという規定なのである。
 しかし、特許権の侵害で、「原告の製品」が比較対象として挙げられることには、どうも違和感を覚える。そこで、CIPITCでは、この点についてディスカッションを行った。当方の疑問点としては、①原告が特許製品を製造していないときには、77条の推定規定は適用されないのか?、②被告製品を発見した後、原告がそれに似せて製品を製造販売したときでも、77条は適用されるのか?である。
 CIPITCの回答は、「原告が製造していないという事例が過去になかったため、①②の問題点については、考えたことがない」とのことであった。そして、①②のような事例では、確かに適用することができず、問題が生じるかも知れないと述べ、今後の法改正でテーマとなり得るかも知れないとの話であった。また、タイ特許法について、まだまだ改正すべき点があるとも述べていた。やはり、まだタイでは特許権の侵害事件の件数が少なく、特許法についても問題点が顕在化しないまま過ぎている点があることは否めないであろう。
 抗がん剤製法事件では、結局、被告側がDAXOTELの製造方法を立証することによって、77条の推定規定の適用を回避したようである。

(続く)


タイ・インドネシアにおける権利行使(2)(弁理士・弁護士 加藤光宏)

  • 2014年 5月 01日

資料はこちら

【刑事訴訟の特徴】
 日本では、知的財産権の侵害に対して刑事手続がとられることは、多くはないが、タイでは刑事手続が90%以上を占める。刑事手続は、特許権などの知的財産権の権利者が警察に告訴することで開始される。
 タイの弁護士および検察に聞いたところ、タイでは告訴は比較的受理されやすいとのことであった。例えば、小売店などの店頭で侵害品が販売されている場合は、自身が権利者であることを示す証明書(登録証など)、侵害品のサンプルがあれば足りるとのことである。告訴が受理されると、警察が捜査を行い、検察に事件を送致する。その後、検察が捜査で得られた証拠を精査して、起訴すると刑事訴訟が開始される。訴訟手続は検察官が行う。
 日本と異なり、タイでは、権利者自身が起訴する場合、検察官が単独で起訴する場合、検察官と権利者とが共同原告として起訴する場合の3通りがある。検察官が単独で起訴した後、権利者が加わることによって共同原告になる場合もある。
 このように、権利者が刑事訴訟に関与することができるのが、タイでの刑事訴訟の特色である。共同原告となった権利者は、訴訟においても検察官と同様に立証活動を進めることができるが、実務上、検察官が主体となって訴訟手続を進め、共同原告は検察官をサポートすることが多いとのことであった。
【民事訴訟の特徴】
 タイで民事訴訟は、概して刑事訴訟よりもコストが高く長期間かかると言われている。コストの多くは、翻訳料が占めるようである。民事訴訟の場合、証拠書類等を全てタイ語に翻訳して提出する必要があるからである。ただし、CIPITCで行われる知的財産権訴訟の場合、当事者の双方が同意すれば、特則により、証拠等を英語で提出することも認められる。実際、ほとんどの場合、英語で提出することについて同意が得られているようである。英語で済ませることができれば、翻訳料はかなり抑えることが可能となる。知的財産権訴訟では、CIPITCのみで認められる特別な手続を効果的に活用することが好ましい。
 民事訴訟において、証拠保全など、日本でとりうる措置は、一応、タイにおいても用意されていると考えられる。民事訴訟の際、外国の書類には、全て公証および領事認証が必要となるなど、独特の制度もあり、証拠の提出には時間を要すると思われる。こうした特徴は、種々の資料で挙げられてはいるものの、それに対する対策は、ほとんどないというのが実情であろう。訴訟になることを予想し、しかもその訴訟で、どのような証拠書類が必要になるかを予想した上で、公証等の準備を進めておくことなど不可能だからである。

(続く)


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