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【民事訴訟or刑事訴訟?~STARBUCKS事件】
ちょうど、本件の調査研究を行っているときに、タイで商標権の侵害事件が発生した。STARBUCKSの商標権侵害事件である。参考になると思われるので、その内容を紹介する。
バンコクでコーヒー屋台を営んでいる者が、STARBUNGという名称とSTARBUCKSと一見、紛らわしい商標を用いていた(どのような商標かは、セミナー資料をご覧ください)。
これに対し、STARBUCKSは、民事的な解決を試みるべく、2012年10月以降、数回にわたってSTARBUNG側に警告書を送付した。ところが、STARBUNGは、警告書を無視して、商標を使い続けるだけでなく、STARBUCKSに対して、商標の仕様を中止する代わりの補償金として約900万円を要求してくる始末であった。STARBUCKSは、裁判所での調停を申し立てたが、STRABUNGが拒否したため、調停は不成立となった。
それでも、STARBUCKSは民事的な解決を試み、裁判所からSTARBUNGに対して、STARBUNGの名称およびロゴの使用の差止命令が出されたが、STARBUNGは、それすらも無視して商標を使用し続けていた。
結局、STARBUCKSは、2013年10月に刑事事件の申し入れも行った。正確に、どのような手続きを行ったのかは不明であるが、この申し入れ後の手続きの進行とタイの弁護士のコメントによれば、STARBUCKSは、検察官を加えず、単独で裁判所に起訴したようである。STARBUNG側は、当初、裁判所からの出頭命令を無視していたようだが、さすがに刑事事件ともなると、無視し続けることもできず、STARBUNG側が商標をBUNG STARに変更することで和解が成立した。余談ではあるが、STARBUNGは、この事件を契機に、バンコクで有名になり、商売繁盛しているとのことである。
この事件でSTARBUCKSは、当初、民事的な解決を試みたが、解決に至らなかったため、刑事的な措置に移行した。この事件は、あくまでも一つの事例に過ぎず、必ずしも民事的措置から開始して刑事的措置に移行すればよいというものでもないし、解決には刑事手続が必要という訳でもない。この事案を参考にしながら、解決策は、その事案ごとに検討する必要があろう。
なお、この事件について、タイでは、STARBUCKSのような大企業が、現地のコーヒー屋台を相手に権利行使したことに対して批判的な意見もあったようである。タイでの権利行使には、こうしたリスクも考慮に入れる必要があると思われる。
【税関における水際措置】
税関での水際措置について、法律上は知的財産権の侵害全てに対して適用できることになっている。しかし、実運用に欠かせない通則が用意されているのは、商標と著作権に対してのみである。従って、実務上、商標権、著作権侵害の場合でないと、水際措置をとることはできない。
【インドネシアにおける権利行使】
インドネシアについては、なかなか詳細な情報が得られていない。例えば、知的財産権侵害に対して、刑事訴訟と民事訴訟のいずれがとられているかという点についても、客観的な統計データが得られない。水際措置については、法律上は差止めが可能な規定となっているものの、実運用をするために必要となる規則や通達が整備されていないとのことである。著作権や商標権を対象とする規則については、2012年7月30日に発効したものの、まだほとんど運用には至っていないとの情報もある。
このようにインドネシアについては、制度は整っているとしても、その運用に非常に問題があるようなので、侵害への対処は、現地の代理人に相談すること抜きに進めることはできないと思われる。
インドネシアの事件を担当している弁護士から聞いた情報によれば、インドネシアでは、刑事手続をとるために、警察に告訴をする場合に、非公式な費用を請求されることがあるので注意する必要があるとのことである。例えば、警察からOperation Feeなど、いかにも公式な手数料かのような名目で費用を請求されるが、実体は、領収書も発行されない非公式なものであることがあるとのことだ。企業としては、こうした非公式な手数料を支払わないよう、注意する必要があろう。
(完)