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【抗がん剤製法特許侵害事件(1)~事案の概要】
ここで判例を一つ紹介する。CIPITCとのディスカッションの題材とした判例である。
余談になるが、タイでは、判例の検討を行うことは容易ではない。タイの弁護士に聞いたところによると、判例にアクセスすること自体が非常に難しいとのことである。一応、最高裁などの判例は、タイ語で公開されることとなっているのであるが、どのような判例が公開されているのか、調査に資する情報が得られるのは、公開よりも相当遅れた時期であり、最新の判例を勉強するということが非常に困難だと嘆いていた。
ここで紹介する事例(2009年10月29日の最高裁判決)は、調査に協力していただいたタイの法律事務所が扱った事件であるため、比較的詳細な部分も把握できているからである。
原告のアベンティス・ファルマS.A.社は、タイにおいて抗がん剤の製造方法に関する特許権を有しており、抗がん剤TAXOTEREを製造販売していた。被告のバイオサイエンス社は、DAXOTELと呼ばれる抗がん剤をインドで製造し、タイに輸出していた。タイ特許法では、製造方法の特許権は、日本と同様、その方法で製造した製品に及ぶ(タイ特許法36条)。従って、争点は、被告がインドで行っている製造方法が、タイでの特許権の技術的範囲(均等範囲を含む)に当たるか?という点である。
CIPITCは、被告の方法は、均等範囲に含まれ原告の特許権を侵害すると判断した。最高裁は、この判決を覆し、均等の範囲には含まれず、特許権侵害に当たらないと判断した。
【抗がん剤製法特許侵害事件(2)~製造方法の推定】
被告が製造販売するDAXOTELの製造方法について、タイ特許法には製造方法の推定規定がある(タイ特許法77条)。同規定は、適用要件として「被告の製品が特許された製法で製造された原告の製品と同一または類似のとき」というものがある。平たく言えば、被告製品と原告の特許製品とを比較し、同一または類似ならば、製造方法も同一であると推定するという規定なのである。
しかし、特許権の侵害で、「原告の製品」が比較対象として挙げられることには、どうも違和感を覚える。そこで、CIPITCでは、この点についてディスカッションを行った。当方の疑問点としては、①原告が特許製品を製造していないときには、77条の推定規定は適用されないのか?、②被告製品を発見した後、原告がそれに似せて製品を製造販売したときでも、77条は適用されるのか?である。
CIPITCの回答は、「原告が製造していないという事例が過去になかったため、①②の問題点については、考えたことがない」とのことであった。そして、①②のような事例では、確かに適用することができず、問題が生じるかも知れないと述べ、今後の法改正でテーマとなり得るかも知れないとの話であった。また、タイ特許法について、まだまだ改正すべき点があるとも述べていた。やはり、まだタイでは特許権の侵害事件の件数が少なく、特許法についても問題点が顕在化しないまま過ぎている点があることは否めないであろう。
抗がん剤製法事件では、結局、被告側がDAXOTELの製造方法を立証することによって、77条の推定規定の適用を回避したようである。
(続く)



