先日、志村けんさんが、コロナウイルスに感染してお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。私は、まさにリアルタイムでドリフターズを楽しんでいた世代で、志村けんさんのギャグにも随分と楽しませてもらいましたので、そのことを書き始めればキリがないのですが、今日は、別の話題に触れたいと思います。
“志村けん“の手話は「アイーン」? ろう者が「志村さんに救われた」と語る理由という記事を読みました。あの「アイーン」のポーズが、手話では、「志村けん」という意味で用いられているというのです。他にも、加藤茶さんや、ビートたけしさんを表す動作もあるとのことです。
なるほど、こう考えると、一つの動作が、特定の人物などを表すトレードドレスとして機能することもあり得るのですね。古いところでは、ピンクレディーならUFOのポーズ?、マイケルジャクソンのムーンウォーク?、少し近いところでは、DAIGOのウィッシュ?(まだ古いですか?)などなど。
ところが、こうした動作について、知的財産権としての保護は、なかなか難しいというのが現実です。パッと想像つくのは、著作権です。しかし、ごく短いポーズに対しては、著作権は認められないという考え方が主流なのです。これらに著作権を認めてしまうと、日常の動作に大きな制約が生じかねないからです。日本では、フラダンスの動作を著作権で保護した判例がありますが、その事件も、フラダンスの短い一つの動作のみを保護した訳ではなく、曲一連の動作を対象としていますし、しかもフラダンスには動作に一つ一つ意味があるという特殊な事情もある事件です。
では、商標権?確かに、商標登録も、近年、動きのある商標など、随分と対象は広がってきました。しかし、商標は、あくまでも文字、図形、立体など何かに付けたり表示されたりするマークを対象とするものなので、人の動き自体を商標として登録することはできません。その動きを表す写真やイラストなどを商標登録することはできますが、それで、動き自体を保護できる訳ではありません。
となると、不正競争防止法ということになります。不正競争防止法では、周知とか著名であることが必要とされるのですが、志村さんのアイーンのように、これほどよく知られていれば、周知または著名という要件は満たすように思います。ただ、不正競争防止法も、その保護対象は、「商品等表示」という用語で表されており、やはり「表示」なのです。人の動作が、この「表示」に該当するのか?議論になるところです。
まだまだ動作に対しては、いろいろと検討の余地があるかも知れません。
もっとも、志村さんは、自分のギャグをたくさんの人がマネることを、喜びそうな気はしますけど。
“志村けん“の手話は「アイーン」なんだ!(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2020年 4月 02日
イケメンゴリラ(弁理士・弁護士 加藤光宏)
- 2016年 5月 26日
名古屋市東山動物園のイケメンゴリラの名前「シャバーニ」を名古屋市が商標登録出願したようだ。
指定商品が「ゴリラ」になっていたら面白いと思い、早速、調べてみたところ、さすがにそのようなことにはなっていなかった。DVD、キーホルダー、文具類、カバン類など、シャバーニが使用されそうな商品名がずらりと並んでいる。もし、指定商品が「ゴリラ」とされていたら、「ゴリラ」を商品として販売する際に「シャバーニ」という名称を使うことについて登録したことになるのだ。商標のことをよく知らない方が手続きをすると、侵しがちな誤りかも知れない。この点、シャバーニの出願は、正解。
「シャバーニ」(商願2016-30028)と「SHABANI」(商願2016-30027)の2件が出願されており、いずれも標準文字となっている。デザイン性のあるロゴ等ではない。登録された暁には、シャバーニの名前を商品に使用すれば商標権の侵害になるということだ。
どこにもゴリラは関係ないじゃないの?と思われる方もいるかも知れない。その通りである。だから、シャバーニの写真やイラストを載せなくても、商品に「シャバーニ」という名前をつけて売るだけで侵害になるのだ。お気をつけ下さい。
なお、「イケメンゴリラ」は未だ登録も出願もされていないようだ。従って、商品に「イケメンゴリラ」とだけ書いて、「シャバーニ」や「SHABANI」と書かなければ、今のところ、商標権侵害となるおそれはないことになる。
また、「名古屋市」による商標登録および出願を調べた限りでは、シャバーニの写真やイラストについての出願もされてはいない。従って、やはり「シャバーニ」や「SHABANI」と書かなければ、自前の写真やイラスト(他人のまねはダメですよ。著作権の問題が生じるから。)を商品に付しても、今のところ、商標権侵害となるおそれはないことになる。
記事によれば、今回の出願の意図は、シャバーニの「活躍を悪意を持った第三者に邪魔されないようにするため」とのことなので、第三者がいわゆる便乗商品などを販売することに目を光らせる意図ではないのだろう。それはそれで一つの方針だと思う。
実際、第三者による模倣や便乗を防止するのは、なかなか難しい。あからさまな便乗商品が出回って、シャバーニが「イケてねぇ」とイケメンを曇らせませぬよう。
高級「生」食パン(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2016年 5月 08日
乃が美の高級「生」食パンというものを、初めて購入し、味わってみました。
名古屋に出店していたことは知っていたのですが、場所を全く知らなかった私。全く偶然に店の前を通りかかり、これまた偶然に予約無しでも購入できる、とのこと。この縁を逃す訳には、いきません。
焼かずに「生」で食べてもおいしいのですが、やっぱ、トーストの方が好みかなぁ。
さて、商標のお話です。
この高級「生」食パン。これで商標登録されているとのこと。早速、調べてみました。
確かに、『高級「生」食パン』(商標登録第5760247号)で登録されていました。標準文字で登録されています。食パンに使う商標としては、「高級」も「食パン」も識別力がないでしょうから、食パンなのに「生」という点だけで識別力が認められたのでしょう。
同じく、『「生」食パン』(商標登録第5760247号)が出願されていますが、こちらは、現在、審査中のようです。「高級」のあり無しで、識別力が大きく変わるとも思えませんので、時期に登録されるのではないでしょうか。
ついでに、「生」+物の名前で、どれくらい商標登録されているのか、調べてみました。1000件を超える登録があります。
ただ、ほとんどが、『ヤマザキ 生ケーキ』(商標登録第4495250号)のように、会社名を頭に付けるなどしていたり、『生茶』(商標登録第5000388号)のように商品のラベル全体の外観で登録していたりして、なかなか標準文字だけでの登録というのはありません。
『生ちち』(商標登録第4511805号)なんていう、指定商品によっては、そのままじゃないか、と思われる標準文字の商標もありましたが、「コーヒー及びココア等」が指定商品となっていました。
『★蔵出し生ビール』(商標登録第3267038号)は、一応、ロゴで登録されてはいますが、特にデザイン性に富んだロゴになっている訳ではありません。「生ビール」自体が一般名称ですから、ちょっと「生」食パンとはケースが違いますね。
あれこれ調べた結果、『生リップ』(商標登録第5099190号)というのを見つけました。指定商品は「せっけん類、化粧品」です。どんなリップクリームだろう?と、「生リップ」でググってみたところ、まぁ、恐ろしい結果に。。。誰も見ていなくてよかった。
食パンについては、『極上の「レア」食パン』(商願2015-120758)というのも出願されていました。現在、審査中で拒絶理由が通知されているようです。
拒絶理由の内容は調べていませんが、「極上」と「高級」、「生」と「レア」は、意味が似ていますから、『高級「生」食パン』(商標登録第5760247号)と類似の商標だと言われているのではないでしょうか。
さて、この出願、どうなるでしょうか?焦げ付きませんように。
「秘密の金庫番」の使い方(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2015年 7月 23日
特許庁が平成28年度から「秘密の金庫番」を始めるそうだ。「営業秘密の開発時期と内容を暗号化したデータを専用サーバーで保管」という無料のサービスらしい。一言で言えば、公的証明書がもらえるタイムスタンプ付きのデジタルアーカイブという感じであろう。ここに営業秘密を管理しておけば、少なくとも、その営業秘密を保持していた事実の立証には役立つと思われる。
ただし、秘密の金庫番に保管しておけば万全という訳ではない。やはり、その使い方が問題だ。
開発した技術内容を、特許出願をせずに護ろうとする場合、不正競争防止法上の営業秘密として保護する方法、特許法上の先使用権によって保護する方法が考えられる。
ここで、不正競争法上の営業秘密として保護するためには、その技術内容を秘密として管理しておくこと(秘密管理性)が要求される。「秘密の金庫番」への保管は、その時点で「秘密を保有していたこと」の証明にはなるし、「秘密として護ろうとしていた」ことの一応の裏付けにはなるだろうが、それだけで「秘密として管理していたこと」を立証できるものではない。社内で、誰でも見られる状態で資料がオープンにされているようでは、「秘密の金庫番」に保管したところで、営業秘密としての保護を受けることはできないであろう。
また、先使用権で保護を図る場合には、技術内容(発明)が完成していたことだけではなく、事業の実施またはその準備がなされていたことが要件となる。この立証がなかなか難しい。実際に事業を行っているときでも、開発された技術内容と、実施している事業とを結びつける証拠は十分にそろっていないことがあるのだ。やはり先使用権で保護しようと考えるのであれば、その時点で、第三者の客観的な視点で先使用権を主張できるだけの証拠をそろえ、それら一式を「秘密の金庫番」に預ける運用が好ましいと思われる。
「秘密の金庫番」は、有用なツールであることは間違いないが、どれほど良いツールでも、それを活かすか否かは使い方次第ということであろう。
職務発明制度の見直しについて(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2015年 3月 16日
平成27年3月13日(金)、職務発明制度の見直しを含む特許法の改正について閣議決定がなされた。
今まで、企業の従業員等が業務として完成させた発明(職務発明)は、従業員等のものとされていた(その後、企業に移転していた)のを、最初から企業のものというように扱いを変えるという内容だ。この改正については議論もあり、若干、右往左往した感もあったが、ともかく方向性が決まったことになる。
改めて改正内容を見てみると、上述の帰属の点については、
職務発明(特許法35条)において、3項に「…職務発明については…あらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは…発生した時から当該使用者等に帰属する。」とある。
もちろん、無償ではなく、4項において「相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する」と規定されている。
従来は、職務発明を企業に移転するのと引き替えに対価の支払いを受けるという枠組みだったのが、職務発明をしたら(無条件に企業に帰属するけど)、企業から相当の利益を受けることができますよという枠組みに変わったということになる。
従来は、対価を払って職務発明を「買っていた」のが、職務発明は最初から企業のものだから対価はいらず、ご褒美をあげればそれで良い、というように変わったのだ。当然、従業員に支払われる「相当の利益」とやらの金額は、低くなるだろう。
ただし、この対価の定め方について、合理的なものでないといけないですよ、という従来の規定は踏襲しつつ、6項で、「経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする」との規定が設けられた。
職務発明規定が合理的と言えるかを争った判例があり(東京地判平成26年10月30日(H25(ワ)第6158号))、今後も、就業規則等が「合理的」か否かは争点の一つとなる。
また、6項に定められた「指針」に準拠しているか否かも争点となる。
つまり、従業者は、就業規則等で「相当の利益」が定められているとき、それが合理的か?というハードルを超え、指針に準拠しているか?という第2のハードルを超えて初めて、その金額を具体的に争うことになる。
しかも、その金額は、発明の対価が基準となるのではなく、6項の指針に従って判断されることになろう。
この先、どのような「指針」が出されるのか。それが重要と思われる。
CONVERSEの意匠権侵害?(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2014年 10月 17日
米国のコンバース社が日米6カ国の会社を意匠権侵害でニューヨーク地裁に訴えたというニュースが流れた(例えば、こちら)。
コンバースと言えば、あの有名なハイカットバスケットシューズの会社であり(筆者が若いころは「バッシュー」とか「ハイバッシュー」と言っていた)、訴えられた会社は、似たデザインの靴を製造、販売しているということだ。
しかし、ちょっと待て。意匠権?
意匠権というのは、どの国でも、権利の存続期間は限られている。米国の場合、登録から14年間だ。
どう考えても、コンバースのハイバッシューは、それよりも古いぞ。果たして意匠権が存在しているのか?
そこで、米国の記事に当たってみた。ここには、「商標権侵害(trademark-infringing)」と書いてある。なるほど、商標権ならば、更新することで現在も権利が生きていることは十分考えられる。
次に、米国特許商標庁のHPにアクセスして、コンバース社の商標権を調べてみる。すると、確かにあった。見慣れたハイバッシュ-の形状そのもので商標登録がなされている(登録番号4065482)(日本で言うところの立体商標というやつである)。出願日は2010年5月11日、登録日は2011年12月6日と比較的新しい。コンバース社は、全部で276の登録商標を有しているから、他にもハイバッシュ-に似たものが登録されているのだろう。(さすがに全部は見ていられなかった)
知的財産に関するニュースでは、制度を誤解して内容が不正確になっている場合があるので、注意が必要かも知れない。
韓国でコンピュータプログラムの請求項が可能に(弁理士・弁護士 加藤 光宏)
- 2014年 7月 08日
韓国の特許の審査基準が改正され、7月1日から「コンピュータプログラム」という請求項が認められるようになった。
日本では「コンピュータプログラム」という請求項が認められているが、韓国では、これまでは、「コンピュータプログラムを記録した記録媒体」(CDやDVDなど)という形でしか認められてこなかった。今回の改正で、プログラムの保護の態様を拡大したことになる。
ただし、日本では、単純に「コンピュータプログラム」という態様を認めているのに対し、韓国では、「媒体に記録されたコンピュータプログラム」という表現を要求するようだ。
とすると、「媒体」の意味が問題となる。
ここで言う「媒体」が、単体の媒体(例えば、CD、DVD、コンピュータのハードディスクなど)を意味するのであれば、コンピュータプログラムという請求項を認めたとしても、その実質は、今までの「記録媒体」という請求項と変わらないのではなかろうか。これに対して、「媒体」が、複数の媒体でも良い(例えば、ネットワークで接続された複数のサーバなど)ということになれば、コンピュータプログラムという請求項の保護範囲は、今までよりも、かなり拡大されることになる。
いずれにしても、請求項の表現の範囲が広がったのは歓迎すべきことである。
実質的な保護範囲については、今後の実務動向を見極める必要があろう。