“志村けん“の手話は「アイーン」なんだ!(弁理士・弁護士 加藤 光宏)

“志村けん“の手話は「アイーン」なんだ!(弁理士・弁護士 加藤 光宏)

  • 2020年 4月 02日

 先日、志村けんさんが、コロナウイルスに感染してお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。私は、まさにリアルタイムでドリフターズを楽しんでいた世代で、志村けんさんのギャグにも随分と楽しませてもらいましたので、そのことを書き始めればキリがないのですが、今日は、別の話題に触れたいと思います。
 “志村けん“の手話は「アイーン」? ろう者が「志村さんに救われた」と語る理由という記事を読みました。あの「アイーン」のポーズが、手話では、「志村けん」という意味で用いられているというのです。他にも、加藤茶さんや、ビートたけしさんを表す動作もあるとのことです。
なるほど、こう考えると、一つの動作が、特定の人物などを表すトレードドレスとして機能することもあり得るのですね。古いところでは、ピンクレディーならUFOのポーズ?、マイケルジャクソンのムーンウォーク?、少し近いところでは、DAIGOのウィッシュ?(まだ古いですか?)などなど。
 ところが、こうした動作について、知的財産権としての保護は、なかなか難しいというのが現実です。パッと想像つくのは、著作権です。しかし、ごく短いポーズに対しては、著作権は認められないという考え方が主流なのです。これらに著作権を認めてしまうと、日常の動作に大きな制約が生じかねないからです。日本では、フラダンスの動作を著作権で保護した判例がありますが、その事件も、フラダンスの短い一つの動作のみを保護した訳ではなく、曲一連の動作を対象としていますし、しかもフラダンスには動作に一つ一つ意味があるという特殊な事情もある事件です。
 では、商標権?確かに、商標登録も、近年、動きのある商標など、随分と対象は広がってきました。しかし、商標は、あくまでも文字、図形、立体など何かに付けたり表示されたりするマークを対象とするものなので、人の動き自体を商標として登録することはできません。その動きを表す写真やイラストなどを商標登録することはできますが、それで、動き自体を保護できる訳ではありません。
 となると、不正競争防止法ということになります。不正競争防止法では、周知とか著名であることが必要とされるのですが、志村さんのアイーンのように、これほどよく知られていれば、周知または著名という要件は満たすように思います。ただ、不正競争防止法も、その保護対象は、「商品等表示」という用語で表されており、やはり「表示」なのです。人の動作が、この「表示」に該当するのか?議論になるところです。
 まだまだ動作に対しては、いろいろと検討の余地があるかも知れません。
 もっとも、志村さんは、自分のギャグをたくさんの人がマネることを、喜びそうな気はしますけど。


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